花子さん、おばあさんになる

人間年齢100歳の老いねこ日記

「敬老の日」は9月15日

 今日9月21日は敬老の日ですが、「敬老の日」といえば9月15日がしっくりくるわたし。その旧敬老の日に、はじめての大腸カメラの検査を受けた。別に症状があったわけではない。自主的な点検。2日前から食事はやわらかいものに制限され、当日の朝には大量の下剤を2時間かけて飲んだ。噂には聞いていたが、「来た!」となってからのトイレの回数は笑えるほどで、ヨレヨレの足拭きマットのように平べったく寝る花子をヨイショとまたいではトイレと部屋を往復した。

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 お腹がやっと落ち着いてきたので、床に寝そべって花子と顔をつ付き合わせる。昨夜、点滴に行った割には元気がない。「おーい、花子さん大丈夫?」抱き上げて胸の上に乗せる。しばらくぐったり寝ていたけれど、やっぱり床の方がいいと言う。

 午前中病院に行っていた母てるこが帰ってきた。交代で次はわたしが大腸カメラに行く番だ。胃も腸もからっぽでふらふらと家を出た。

  大腸カメラの検査着(お尻側が空いている)に着替えて細いベッドのまま運ばれ、麻酔をされる。身体が熱くなって「ん?なんだこの麻酔」とおもった瞬間から記憶は飛んで、「霜田さ〜ん終わりましたよ」という声で目をひらく。さらにそれから1時間後の16時半に目を覚ます。着替えて待合室に移動するも、気持ち悪くて吐いてしまう。麻酔が合わなかったみたいだ。ベッドに戻って点滴をうけることになった。母からメールが来ていたので「気持ち悪くて寝てる」と朦朧としながら打つ。意識が飛んでまた寝ていた。電話が鳴って「花子もうダメかもしれない」と言う。急いで診察をしてもらい会計をしているとまた電話が鳴って「花子死んじゃったよ。すごい苦しんで」と母てるこが泣いた。

 病院が呼んでくれたタクシーに乗る。親切な看護師さんが「猫ちゃんの魂はまだあるとおもうから」と背中をさすってくれた。

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 どうして今日だったんだ。17日にお願いしたら15日しか空いてなかった。そもそも、予約したときは9月の中旬まで花子が持つとは思えなかったのだ。

 土曜日に会った友だちに「どうしよう、大腸カメラの日に急変したら」と言っていた。さっき家を出る前もなんとなく「花子、わたしが帰ってくるまで持たないかもなあ」と言っていた。予感はいつもしていたのだ。

 誰かの書いた脚本のとおりに動かされているような、どうしようもない妙な気持ちでぼんやりと外を見た。2時に行ったのにすっかり夜じゃないか。

     

  家に着くと、声をかけたら目をうっすら開けそうに花子が横たわっていた。撫でると温かった。あと30分早く帰って来れたら...、その時間がとても惜しかった。

 まだ気持ちわるかったけど、自転車に乗って花を買いに行く。なんかふらつく。そうだ今日は自転車乗っちゃいけないんだっけ。雨がぽつぽつ降ってきた。

 決めてあったペット葬儀社に電話して明日の午後の葬儀をお願いする。花子のからだのあちこちに保冷剤を置いて、花で飾る。大腸ポリープを取ったので、お風呂は禁止。シャワーだけ浴びて、力尽きる。

 翌日午後1時 、日焼けして感じのいいペット葬儀社のひとが来た。よく心得ていて励ましのお喋りのあと、声のトーンを変えて「それでは、お別れのセレモニーを始めます」と言った。少し芝居がかっている。マスクの下でニヤリと笑ってしまった。綿棒に含ませた「末期の水」を口元にちょんちょんと乗せ、ハッカ油で清めたタオルでからだを拭き、とても小さい念珠を手首にはめて儀式は終わる。近くのパーキングに止めてあるワゴン車に花子を連れていき、車に搭載されている火葬炉に寝せる。「最後にお別れの言葉を」と促される。喉がつまって何も言えないわたしの代わりに母てるこが「今までありがとうね」と声をかけた。

 

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 1時間ちょっとして、花子が帰ってきた。 「長生きした猫さんでしたので、骨もとてもしっかりしていました」と汗をかきながら骨壷を渡してくれた。受け取ると底がほんのり熱かった。

 そういえば、花子のひげを拾って集めた小箱があったな。

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取り出して数えてみると30本あった。

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骨も髭も白くてきれいだ。

1日置きに通った動物病院に電話する。

しっかりしてたつもりが、胸がつまってお礼の言葉がなかなか言えなくて困った。「花子さんがんばりましたね」と慰めてもらう。もう行くこともないのに「じゃあ、また」と電話を切った。

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 ヨボヨボになればなるほどかわいかったなあ。蜜月の2週間はしあわせだった。夜中におむつを替えて撫でながら、花子1匹で子育てと介護とどっちも体験しちゃったなとおもった。大量に残った紙おむつ。全部交換してあげたかったよ。葬儀を終えてホッとしたけど、花子の居ない気配にじわじわ涙が出て眠れなかった。

 翌日、ポリープを取ったあとの診察のため病院に行く。混んでいて2時間くらい待った。おとといのことを思うとため息が出る。親切にしてくれた看護師さんが忙しそうにゴミ袋を持って前を通った。「あ」「あ、猫ちゃん、大丈夫だった?あ...」「はい、ありがとうございました」とお辞儀した。だいじょぶ、って言ったあと、大丈夫、じゃないよなという目をしてた。わかる。こういうときってちぐはぐな言葉が口をついて出てきちゃうんだよね。かわいい看護師さんだった。そうそう、わたしのポリープはほっとくとガン化しやすいタイプらしい。

 夜、ともだちから電話が来た。「で、お母さん大丈夫?」そう、白状すれば花子の世話はてるこさんが90%担当していたので、わたしの猫というより、てるこさんの猫であった。「そりゃ寂しいとおもうけど、意外とわたしが凹んでる」「そりゃそうでしょ」「21年も一緒だったから、花子がいない生活のリズムに慣れないよ、さみし〜」

 そう、とってもさみしい。この夏は花子さんの病院通いに気が張っていたので、すっかり涼しくなって秋らしくなったことにもさみしさが増す。サッカーの試合で言えば、いつ笛が鳴ってもおかしくないロスタイムだったけど、まだ鳴らない気がしちゃってた。

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 「花子の最期はちゃんと看取るつもりでいたのにさ、なんでもうちょっと待っててくれなかったんだろ...大腸カメラなんてやらなきゃよかった」「そんなの全部たられば、だよ」「でもさ、花子にもてるこにも申し訳なくてさ...」

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 次の日もまだメソメソしていたけど、用事があって出かけた。ともだちとお茶をする。「すごい苦しんだんだって」「いや、死ぬ瞬間というのは気持ちがいいらしいよ」「へえ〜、でも、それまではさ...」あ、そういえば、動物病院の先生が言ってたな、「最期はけいれんして苦しそうに見えるけれど、その時には猫さんには感覚がないんです。でも、飼い主さんが見ているのがつらいので、けいれんを和らげる座薬があります」その座薬を使う間もなくて逝ってしまったが、逝く2時間前にマグロをぺろりと食べたと言うし、大好きな母てるこに看取られて、花子さんは思い残すことはないかもしれない。そう思うと、わたしの心残りもちょっと薄らいでくる。メソメソして言えなかったけど、21年間ありがとね、花子さん。

 

 

このブログ「花子さん、おばあさんになる」は、本日「敬老の日」をもって最終回です。お付き合いありがとうございました。天国の花子ばあさん共々感謝いたします。ぺこり。