花子さん、おばあさんになる

人間年齢100歳の老いねこ日記

Happy Birthday! !

 

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  1999年9月9日ノストラダムスの終末予言の日、わたしはそれとはちがう終末を迎えていた。「なんでこんな日に...」とおもいながら出かけたことを思い出す。自分で決めたことなので仕方ないけれど、すっかり気が抜けた。その抜けた気力をなんとか取り戻そうと、動物愛護団体の「里親募集の集い」を見て回った。こどもの頃に住み着いていたノラ猫「みいこ」みたいなやさしい猫をなでて、ショボショボした気持ちをいやしたいとおもったのだ。

 「みいこ」と同じ白黒のトムキャット柄の猫はいないかなあと探すも、出会えないまま冬になった。2000年1月16日。横浜大通り公園で里親募集の集いがあると知り出かけた。白い靴下を履いたような茶トラのオスを抱っこしながら、「あっちのキャリーケースにトムキャット柄がいなかったら、この子にしようかな〜」と考えた。一旦茶トラを戻してのぞいてみると、じーっとにらんでいる白黒がいた。「やだ、いた。でも、この子暗くてきつそうな顔だな...」と迷った。そこへ担当のおばさまが近づいてきて「この子、頭いいですよ。生後4ヶ月くらいかしら」と言った。ああ、わたしがジタバタしていた9月に生まれたのか...。そっか〜。じゃあ、こっちかなあ?でも...。

最後まで迷いながら白黒のほうを連れ帰った。

 

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  あれから20年。

そう、花子さんついに20歳になりました!

人間年齢96歳です。長生きばあさん猫です。

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  そんなおめでたい誕生月の9月に突入してから、花子さんの認知症がまた進んだような気がする。かりんとうだけの粗相だったのに、おしっこをするようになってしまった。それも畳の上に...。そして、なぜかそのあとスタスタ歩いてトイレできちんと脱ぷん。なぜ?そして、力尽きてその上で寝てしまうなんて...。ああ。

 

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 今は畳の上にシートを敷く予防作戦中。(しっかりシートの上にしてた...)

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 花子のトイレは家のあらゆる場所になってしまうのだろうか...。

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今後の対策としては、オムツでしょうか...

嫌がるだろうなあ〜

 

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認知症はどこまで進むのでしょう。

そして、花子さんの体力は...

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お誕生日おめでとう!



 

 

 

 

不調をやっつけるの巻

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またまたご無沙汰してしまいました。気づけば梅雨入りしております。

花子御世話係のボスから、ぐるぐるまわる花子の動画をここにアップするよう指示があったのでやろうと思ったのですが、はてなブログは動画の埋め込みが出来ないのでした。裏テクがあるらしいのですが、それを習得しているうちに夏が来てしまいそうなので、ひとまず先月あった花子さんの体調不良の報告でもしてみようかとおもいます。

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ボスから「花子が激しい下痢と嘔吐でどうにかなりそうだ!」と電話が来て急いで向かうと部屋中が修羅場となっておりました。しばらく様子をみようと思ったのですが、下痢が止まらず。休診日のどうぶつ病院へ電話をして臨時で診てもらうことになりました。

 

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脱水にならないように点滴と吐き気どめの注射をしてもらいました。

(もちろん怒りまくり)

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翌日も、翌々日も通ってやっと症状が落ち着きました。

(どこが悪かったのかイマイチはっきりしない)

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もう大丈夫?

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わからんニャ。

 

今のところまた元気にぐるぐる回っています。

(認知症はどんどん進む)

 

 

以上、2019年初夏の花子さんに起きたゲロピー事件の報告でした。 




 

春と花子

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春ねこ

 え〜っと、春になっちゃいました。マメに更新すると新年に誓ったくせに...。

 まず、花子さんはご存命です。認知症は進んでおりまして、毎日ぐるぐる回りながら脱ぷんしています。ゲーゲー吐いてもおります。そんな中、読売新聞水曜日夕刊で約7年間連載してきた「水よう日の花子さん」が最終回をむかえました。連載がこんなに続くと思っていませんでしたし、花子がこんなに長生きするとも思っていなかったので、自分がずいぶんいい歳になっていることにも鈍感になっていました。

 ふと立ち止まれば、ピチピチの「Pop Style」という紙面で登場人物たちの高齢化が進んでいくのは申し訳ないような気がしていました。なんとかみな元気なうちに終われたのはよかったと思っています。

 

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長いおやすみ

 

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新連載?

 花子まんがは終わりましたが、ちいさな新連載が始まります。スペースは半分以下ぐらいかな? 

 「霜田あゆ美の今日はどんな日?」という記念日をお題に大喜利するようなコーナーです。これからもどうぞご贔屓に。新年度、新元号もよろしくおねがいします。

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あけましておめでとうございます

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「花子さん近影」

 大変ご無沙汰しております。すっかり年が明けてしまいました。今年もよろしくおねがいいたします。(写真は、いらなくなったコートのフードに付いていたファーを首に巻いてややゴージャスな雰囲気の花子さん、です)

 

 けっこうな年齢になりましたので、元気でいるかどうかだけでもお知らせするべきところ、なんだかんだで更新が今日になりました。時々のぞきに来てくださった方には申し訳ないです。すみません。今年はもう少しマメに書きます。

 で、この頃の花子さんはどうなのよ、ですが、こんな感じでございます。

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「粗相したことすらわかっていない」

トイレを洗っている間にやってきてトイレがないのに脱ぷん。ぐーすか寝てたのに...。

 

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「徘徊花子さん」

 夜中になるとぐるぐる回っています。サプリの効果があまりないのか、けっこうな夜鳴きです。認知症が進んでいるようです。

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「食欲不振」

 食欲もあまりありません。手のひらに乗せて鼻の先に持って行くと食べたりします。ウチに来たばかりのときに引きこもって全然食べなかったのですが、その時も手のひらに乗せたらムシャムシャ食べました。赤ちゃん返りでしょうか。

 

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「上から下から」

 そして、この頃ウンチが固くてふんばってもなかなか出ません。そうこうしているうちに気持ちわるくなったらしく顔を出してゲ〜っと。上から下から忙しい。お世話係のわたしたちも忙しいです。

老いについて考えさせられる日々です。


 

 

 

 

ひとと暮らすため猫は鳴く

  秋うらら、9月は花子さんの推定誕生月、めでたく19歳です。めでたいと言えば、わたしと花子のつめ切り戦争があっけなく収束したことも報告したいとおもいます。これまでの戦いはこちら↓

「つめ切り戦争再び」 - 花子さん、おばあさんになる

 なんてことはない、どうぶつ病院で定期検診のときに「つめを切ってもらえますか?」と、ふとお願いしてみたら「はい、わかりました」と、あっさり五百円で請け負ってくれたのである。

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 大丈夫だろうか。手を触るだけで唸って威嚇する猫である。お医者さんたちは噛みつかれないだろうか。心配なきもちで待つ待合室に、花子の絶叫が響き渡る。

 あー。思わず下を向いて笑ってしまった。ほんと、すみません、すみません。

 

 

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↑想像図。きっとこんな感じだったんじゃないかな。

 

 戻って来た花子のつめをチェックしたいけれど、大興奮しているので触れない。

夜、ぐーすか寝ている手をひっぱって見てみると、きれいに短くカットされていた。さすがプロの仕事。有難い。五百円以上のことをしてもらった気がする。チップを渡してもいいくらいだ。やっと、戦いは終わった...。こんなことなら、さっさとお願いすればよかったなあ。

 

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 もうひとつ、夜鳴き&徘徊のその後も報告しておきます。

 魔法のフェロモンスプレーの効果を上回る夜鳴きに辟易した我々は、サプリメントを試すことにした。アマゾンのプレビューは星3つ。9件の書き込みを読むかぎり、効果はそれほど期待できそうにない。それでも星3つくらいの効果があれば助かる。パッケージは犬の顔しかないが、猫も対象だと小さく書いてある。半信半疑、ちょっとお高めだけどセール価格だ、試してみよう。

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 飲んで数日後、おや、効果アリ?なんとなく夜鳴きが減った?

 そう、ちょっと効果があったのだ。完全にはなくならいけど、星4つくらいの効果があった。やったー。

 そして瓶2本目を飲んでいる現在は、星3つくらいの感じ。ちょっと慣れてきちゃったのかな。前ほど激しくはないけど鳴いている。ぐるぐる徘徊もしている。

 夜遅く帰宅してドアをあけたとたん、壁と向き合ってじっと固まっている姿に遭遇したことがある。ほとんど見えない視力で、今どこにいるのか考え込んでいる様子。持ち上げてエサの前に移動させたら、カリカリを食べて、ちょっと鳴いてから寝床へ向かった。 

 ところで、「ニャーオ」という鳴き声だが、人間だけに話しかけるネコ語だということを最近知った。うちの花子さんの鳴き声は「ギャーオ」に近い「ニャーオ」だけど。エサがほしい、ウンコが出た、吐きそうだ、遊べ、と用事があるときだけ鳴くわけで、他にネコがいたとしても、そのネコには「ニャーオ」は使わないということだ。ではどうするかというと、「フーッ」とか「シャーッ」とか、あとは舐め合ったり、目を合わせたり、手を出したりということになるかな。

 真夜中に鳴く花子には、わたしたちに訴えたいことがある。懸命に伝えているのに反応がない。で、あたまに来て喋りながら歩き回っている。昼も夜もわからなくなった脳で、花子は今日も人間とだけ会話しているのだ。

 

 

 

 

復活の日

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 (前回のつづき)

 退院して真っ先に行きたかったのは皮膚科だ。入院前から右の人差し指が赤く炎症を起こしていて、それが悪化していた。指の関節が曲がる病気「へバーデン結節」の初期症状をこじらせてなった。なんだかかっこいい名前だけどうれしくない。

 6月に肩と腕が痛くて近所の整形外科へ行った。五十肩だろうと言われ、指先も痛いと訴えたら「指は別の病気」と言われた。母も同じ症状で指が変形している。体質が同じらしい。わたしはまだ曲がっていないけど、なんとか避けられないものか。ひとまずはこの炎症を治したい。かかりつけの皮膚科はいつも3時間待ちなので、とりあえず近所の泌尿器科兼皮膚科へ行った。

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 すると、「ポスターカラーか?」というような鮮やかな紫色の塗り薬を処方された。「服に付くと色が落ちないから気をつけて」とのこと。なんだか恐ろしい薬だな。帰りにスーパーに寄ったら、おつとめ品コーナーに、熟したあんずが並んでいたので買ってジャムをつくった。おお、上手に出来た。うれしい。日常生活を楽しんでぐっすり寝た。

 翌朝、起きてびっくり。顔が赤くむくんでいる。

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そればかりか、よく見たら身体に赤い発疹が...

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 あの紫の薬の呪い?まさかね。

しかし、参ったなー。かかりつけの皮膚科は休診日だし...

手術した病院へ電話する。「今日来られるようでしたら診ますよ」というので、よたよたと電車に乗って向かった。

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 主治医のT先生ではなくて、若い先生の部屋に通された。昔、ジャニーズだったような雰囲気。喋ろうとすると咳こむ。声を絞り出してやっと説明した。「とりあえず、痛み止めと咳止めの薬をやめて、明日かかりつけの皮膚科の先生に診てもらってね」とにっこり言われて帰る。そんなのさっきの電話で言ってくれ...と思わずにはいられなかった。

 翌日、いつもの皮膚科へ行き、3時間待って診てもらった。先生が「おお、手術どうだった?ん?ああ、こりゃ薬疹だ。何飲んだ?どっちかというと痛み止めの薬があやしいな」その場で錠剤1錠と水をもらって飲んだ。「5日分出すから、それ飲めば治るよ」「ありがとうございます。先生、あと...指の炎症で、近所のお医者さんにこんな紫の薬もらったんですけど...」「なんだこりゃ。まだこんな薬出してるとこあるんだ?」「はあ...」「違うの出す?」「おねがいします」

 看護師さんがくすりを2種類塗ってくれて、ガーゼの上から包帯をぐるぐる巻いた。「え?なんだかずいぶん大げさだな...」

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 翌日、胃が痛くなり、市販のガスター10を飲んだ。いつもなら、飲めばすぐ痛みは引くのに、なかなか良くならない。次の日も胃が痛い。ガスター10は8時間あいだを空けて服用しなくちゃならない。8時間我慢するのがしんどい。ううう。

 胃は痛いし、咳き込む。傷も痛むし、手術の影響で胸の奥に板が一枚入ってるような違和感。そこへ来て、五十肩、指はぐるぐる包帯巻き。さらに追い打ちをかけるような猛暑日。もう寝ていられない。取り寄せた安いマヌカハニーをなめる。その一瞬だけ胃の痛みが薄らぐ。しかし、また胃が痛い。水を飲む。一瞬おさまる。またすぐに胃が痛む。暑い。しんどい。暑い。しんどい。夜が長い!!

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  そんなことを3日間ぐらい繰り返し、術後の診察、外来予約日が来た。無事行かれるだろうか...。ほとんど何も食べられず、お腹がぺったんこだ。日傘を握りしめて出かけた。

 T先生の診察室の表示は「混雑中」2時間待ってやっと呼ばれる。傷口より何より「胃が痛いのが一番しんどい」と訴える。先生が「皮膚科で処方された薬で胃をやられたんでしょう。もっと強い胃薬出しましょう」とタケキャブを処方してくれた。「先生、わたし、入院してたときのほうが元気でした」と言ったら、先生は困ったようにクスッと笑った。

 その後もタケキャブを飲んでるのに、症状がちっとも改善しない。

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 なんとか仕事部屋へ行くが、西日の当たる部屋は夕方になるにつれ、ますます暑さが増していく。今年の暑さは耐えられない...。みんなもそうだろうけど。

 

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 電話に出ると咳き込む。声がちゃんと出ない。自分の名前も何言ってるかわからない。椅子に座っているのがつらくて床に横たわる。気づくと寝ている。ダメだ仕事にならない。帰ろう。

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 家へ帰る。バタリと寝てしまう。お粥を食べる。胃がしんどい。痛いのが治らない。また横になる。起き上がっている時間は何時間もない。

 何日も続くので、近所のいつものクリニックへ行く。また胃カメラを飲むことになった。3ヶ月のあいだに2回も胃カメラとは...。

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 麻酔が効いて、またゴーゴー寝てしまった。しかし、いつもと違うのはお腹が痛くて自発的に目が覚めたことだ。いててて。看護師さんを呼んで「お、お腹が痛いです...」と訴える。トイレに行くよう言われて行くがなにも出ない。いててて。

 とりあえずそのまま、先生の診察へ。「胃はとてもきれい!だから薬は出せないね」「はあ...でも、じゃあなんで痛いの治らないんでしょう」「うーん...」「というか、先生なんだかお腹が痛くて...」「う〜ん...」

 もう、なにがなんだかわからん。。

 とにかく、お粥生活だ。柔らかいものだけ食べて養生だ。力が出ないけど仕方ない。

 そんなこんなで7月は終わっていった。

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 8月。よっこいしょと気合を入れたら、なんとか動けるようになってきた。ごはんもだんだん普通のものが食べられるように。咳も減ってきた。ああ、復活?やっと復活できた?

 はあ〜ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫そうです。お見舞いの品や言葉をくださったみなさんありがとうございます。支えになりました。しかし、これっぽっちの手術でこんなヘロヘロになって、この先どうするんだ。鍛えないとなー。

 

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 と、言って終わりたかったのに、五十肩が悪化してきて、夜痛くて寝てられません。痛み改善の運動はしているけど...。半年から1年すれば治るよって言われましたが、そ、そんなにこの痛みは続くのでしょうか?

 ううう。完全復活の日はいつになるのだろう。のんびり行きますわー。

 こんな長い愚痴にお付き合いくださって、どうもありがとうございました! 

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おわり

 

 

病院の生活

前回のつづき

  手術2日前の入院。検査や手術の説明を聞く以外は特にすることがない。入院生活はヒマだろうと予想し、モバイルWi-Fiを契約してMacBookを持ち込んだ。久々にブログを更新したり、仕事のメールを送ったり結構やることはある。この時点ではまだ患者の意識ゼロ。それに、手術は初めてではないのでそれほど緊張感はない。レンタルパジャマの上は、はだけて胸が丸見えなのでTシャツのまま過ごす。

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 ここの病院は個室料金が安くて7000円ちょっと。保険で1日5000円出るから、個室にしちゃおう!と思ったら空きがなくて、4人部屋になった。患者の年齢層は高め。洗面所でおじいさんに「あんた若いのに気の毒にねえ」と声かけられた。

  病室では70歳と78歳のマダムと同室。普段なら、おばさまと喋るのは得意分野なのだけど、78歳のおばはんが、看護師さんたちに「いくつ?彼氏は?結婚は?」と大声で質問しているのが嫌でも聞こえてきて、こりゃ隙を見せたら面倒だとおもい会釈だけしておいた。 

 お楽しみは夕食前のNHK朝ドラ「カーネション」の再放送。イヤホンをして寝転がって見ようとおもったら短くて出来ない。ラジオ用を持ってきてしまった...。

 

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 隣のマダムの咳が一晩中続いていた。耳栓をしても気になる。熟睡できない。そこにきて朝5時、ブラインドをガーッと開けて、78歳と70歳が大声でおしゃべりを始めた。孫は何人いて何してるとか...。ええ〜、6時起床なのに早過ぎじゃろ〜〜。個室、個室。。個室は空かんか?

 

 手術当日は、朝ごはん抜きだからすることがなくてヒマだ。朝6時からワイドショーをつけてるから、同じ話題ばかり見ている。歌丸さんの訃報は入院した日に、ヤフーニュースの速報で知った。もしかしたら、今わたしのいる病院から旅立ったかもしれないという噂がある。ま、怪しいけれど、それならそれでなんとなく感慨深い。

 

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 時間になったので、手術着をひらひらさせながら眺めのいい渡り廊下を渡り、手術室へ向かった。リラクゼーション音楽がうすーく流れている。背中を丸めて麻酔をされる。次にマスクする。そして、わたしの記憶はすっかり飛び、目が覚めたらICUにいた。第一声は「暑い」とにかく暑かった。痛いは次。

 

 

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 手術は内視鏡だけで出来たと聞きホッとする。ただ、5時間もかかったという。先生たちも大変だが、待機していた両親も疲れたことだろう。ありがたや〜。ま、そんな殊勝なきもちでいられたのも目が覚めた直後だけで、そのあとは、あ〜も〜いやだ〜この状態から助け出してくれ〜生き地獄だあ〜ときもちが暴れた。

  わたしのベッドからは壁かけ時計が見える。両親が帰ったのが夕方前。なのに、いつまでたっても時計の針は夕方を指している。痛い。ヒマ。痛い。ヒマ。痛い。ヒマ。傷もズキズキするけれど、この状態で意識があることがつらい。睡眠薬で眠らせてほしい。

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 ちっとも進まない時計を見て、どうしたらこの超退屈な時間をやりすごせるだろう...と考えた。頭しか自由ではないのだから、ここは「妄想」をするしかないだろう。ということで、あれやこれや想像した。まず、ここを出て一般病棟に移ってのびのびするわたし。退院して友だちとわいわい遊んでるわたし。もっと先のむふふな人生。そんなことを考えながら、眠ったり起きたりしていた。

 すると、看護師さんたちの会話が耳に入ってきた。「え?これシモダアユミさんの?」「あ!そうだ...」「わ...。でも、奇跡的に」「うん、奇跡的に」「あ〜、奇跡だね」「うん」。え〜!何何?何をうっかりしてたのよ看護師さん!聞きたいけど、意識がもうろうとして聞けない。奇跡が起きて大丈夫だったんだから、まあ良しとするけど...。

 

 救急車のサイレンの音がして目を開ける。時計を見ると夜10時過ぎ。腰が痛くてちょっと浮かせて位置を変える。しかし、腰よりも背中が妙に痛い。なんとなく不安で、はじめてナースコールのボタンを押した。背中のチューブを見た看護師さんが「あら!血!何か漏れ出てるわ。先生に診てもらいましょう」と言う。ところが「霜田さん、ごめんね。急患で先生たちみんないないので待っててね」。背中をまくらで浮かせた姿勢で待たされ、そのまま寝てしまった。先生がきて「どれどれ」と診てくれたのは夜中の2時近く。え〜、ずいぶんほっとかれたなあ。すると「もぞもぞ動いて液が漏れただけだから、カットバン貼っておいて」と指示して先生は消えた。

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  翌朝、「朝食です!」とベッドの角度を変えられて起き上がる。イテテテテテ。朝ごはん?この状態で?テーブルの上に白い朝食が並ぶ。冷奴、お粥、ヨーグルト。看護師さんが「お豆腐に醤油かけますか?」と聞く。醤油をかけてもらっても食べられる自信がない。「みなさん、こんな状態でも食べるんですかねえ」「完食するひと、見るのも嫌ってひと、色々ですね」「はあ。ヨーグルトだけ食べようかな...。あの...スプーンを...」。ここは醤油の気遣いよりスプーンでしょ、スプーン。

  そして、朝ごはんのあとしばらくして、ICUから病室に移った。「車椅子に乗れますか?」と聞かれ「無理な気がします」と答えたので、ベッドからベッドに移されてガラガラと運ばれた。「個室が空いたので個室ですよ〜」と聞き、段差でガタン!となる振動すらうれしかった。

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    お昼ごはんは自力で食べられず、母に食べさせてもらったけれど、早くいろんな管から解放されたい!その一心で、ベッドを直角に起こして自力で晩ごはんを食べた。

 管がぜんぶ取れて、自由に売店に行かれるようになると、どんどん回復していった。めずらしいお菓子やアイスを買いに、週刊誌を立ち読みしに、売店へ行くのだけが楽しみであり、運動であった。  もうイヤホンなしでテレビを見られるし、アマゾンプライムで映画も見られるし音楽も聴ける。自分専用の冷蔵庫と洗面所もある。地獄から一気に極楽へ来た。うれしいうれしい。

 しかし、テレビを見ると、オウム事件の死刑執行、西日本の豪雨被害と、日本はずっしり重い空気に包まれていた。そんなこともあって、テレビは消していることが多かったが、明け方に目が覚めてしまい、なんとなく電源を入れたらサッカーW杯をやっていた。ぼんやり眺めているとPK戦になって興奮した。あれ、どことどこの国の対戦だったけな。興奮したわりに覚えていない。

 

 そんなこんなで10日間と言われていた入院生活も8日目に退院することが出来た。予定より早まって良かった。とは言っても、まだ傷は痛い。重たいカバンを持つのは無理があったので母に持ってもらい電車で帰ろうとしたら、クレーム発生。「腰が痛くて持てないわよ!」。タクシーで帰った。

 

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 久々の我が家では猫が喜んで迎えてくれた、なんてことはなくて完全無視。性格は熟知しているけれど、つくづく薄情なやつだ。ベランダの植物たちに水をやり、溜まってたあれこれを片付けて、これでやっといつもの日常生活だ〜!

...と、喜んだのもつかの間。絶不調生活はその先にあった。

 

つづく